徒然なるしらべにのって!

あの地平線 輝くのは どこかに君を 隠しているから

今後のコンピューティングを考えてみるー今は昔ときたもんだ!(1)

 

f:id:naophone008:20210809201142j:plain

「TOKYO2020」オリンピックも閉幕し、お盆の季節となりました。パンデミックといえども政府の期待に反して人出は増えそうな予感です。仕方がないですね、政府の国民を小馬鹿にしたような戯言には、付き合ってられないということでしょうか?

 

2004年に、わたしは「シンクライアント=ディスクエレスPC」端末を提供する企業に役員として迎え入れられました。当時は韓国製の製品から台湾製へと製品ラインを変えた時期でした。製造工場はAppleの製品なんかも作っている深圳にあるフォックスコンだったのです。

 

わたしの基本となる任務は、市場計画でした。設立してから2年以上になるのですが、わたしが入社した時はほとんど顧客はありませんでした。強豪企業は、NEC松下電工インフォメーションシステムズ、そしてワイズなどが知られていましたが、まだ浸透しているとは言い難い状況でした。

 

2005年になってマイクロソフトWindowsXPエンベデッド版OSを出すというアナウンスがありました。それまでWindwsCEを使うか独自OSを使うかの選択だったのですが、ビジネスでスタンダードとして使われているWIndowsXPと同じインタフェースが提供されるというニュースに興奮したのを覚えています。さらに、政府は度重なる情報漏洩の被害に対して「情報保護法」を制定し、顧客情報の漏洩を起こした企業には厳罰で臨むということが発表されました。

 

これぞ天の思し召し、と感じビビッときました。この2つがシンクライアント市場のドライバーとなると考えたわけです。昔取った杵柄で、「よし産業コンファレンスを設定し花火をあげて市場に認知してもらおう」と決めました。各ベンダーに「競争は後に置いておいて、一緒に市場を作りませんか」と声をかけ、わたしは「シンクライアント産業コンファレンス」の企画づくりに専念しました。

 

「昔取った杵柄」とは、わたしがガートナーのサービスを情報技術研究所(現在のITR株式会社)で販売を開始し、日本ガートナーグループの設立に参画した頃、ERPという概念を初めて日本に紹介したときも、同じように「ERP産業コンファレンス」を企画し、市場に浸透させたことがあったからなんです。この企画以降、雑誌紙では「統合業務パッケージ」という名称が消え「ERP」という名称に見事に変わり、多くの解説記事はわたしが執筆することになったのです。

 

まずコンファレンスの会場や講師のコーディネーションを、コンピュータ系メディアの優IDGにお願いしました。講演の講師は、全てわたしがテーマとともに決めました。しかし当時シンクライアントについて日本で発表された文献やコラムはほとんどなかったために非常に苦労しました。そんなとき、書店であるセキュリティに関する文献を見つけたんです。そこの最終章には、きちんと「シンクライアントのセキュリティ上の有効性」について述べられていました。「この著者だ!」とその発見に心が躍りました。著者は当時総務省のCIO補佐官をされていたIBM出身のOさんでした。

 

早速、アポを取ってこのコンファレンスのわたしの思いとなぜOさんに依頼したいのかを熱弁し、了承していただきました。そしてデータクエスト時代の先輩で日本ガートナーを立ち上げた後に合弁の結果日本が^ートナーグループに来られたPC市場を担当のSアナリストに公園の依頼をしました。IDGのメディアと連携したこともあって、この企画はお披露目としてはまずまず成功だったと思います。この後、日経産業新聞をはじめ多くの IT系メディアの依頼で「シンクライアント」について執筆もさせていただきました。さて、こうやって引き合いも増え、続々とHPなどの大手メーカーも市場に参入してくることにったわけです。

 

これが、日本市場におけるシンクライアントを活用したサーバーベース・コンピューティングの始まりだったと言って良いでしょう。当時まだクラウドにあるサーバーを使うことはメジャーではありませんでしたので、今で言うオンプレミスのサーバーとの接続が主だったわけです。ネットワークがまだ貧弱だったというのが大きな要因です。

 

サーバーベース・コンピューティングのメリットを当時は次のように説明していました。それは、セキュリティの向上とTCO(総合保有コスト)の低減です。

 

情報漏洩の多くは、社内で使っているラップトップを社外で使うために持ち帰った際に、盗難や紛失をしてハードディスクから抜き取られたというのが原因のトップでした。それを回避するには、暗号化するとかシュレッダーにかけて廃棄するとかという方法がありますが、ハードディスクを無くしてしまいPCにデータが一切記憶されていない状態にすることが最も確実な方法なんですよ。

 

                    f:id:naophone008:20210810173419j:plain出典:JNSA

ハードディスクをPCから無くしてしまうと、実は他のメリットも得られるのです。デスクトップPCの故障の70%の原因は、動く部品にあることを知っていますか?それは、ハードディスクと冷却ファンなんです。現在はSSDがあるのでM1搭載のMacbook Airは音もせず消費電力も低いですよね、なので冷却ファンはついていません。つまり、ハードディスクを取り除くと、セキュリティが向上するだけではなく、故障率が減る、熱が出ないので冷却ファンもいらない、低消費電力化する、筐体は小さくできる、というわけです。

 

一般的なPCの消費電力は100~150Wですが、シンクライアントのそれは10W前後とPCの10%以下なんです。これだけをみてもTCO(総合保有コスト)が下がるのは理解できますよね。しかも、ソーラーパネルで動かしたかったんです。というのもフィリピンの公立学校では電気代が払えないためにPCがあるのに使われていない学校もあったからなんですよ。一般のPCだとかなり発熱するので、エアコンも必要だという問題があったからです。

 

しかし、TCOのもっと大きな部分を占めるのは、人の手のかかる作業、つまりセットアップやアップグレード、そしてメンテナンスです。

 

シンクライアントには、大きく分けて2つのタイプがあります。OSの所在地によって分かれます。ハードディスクはないわけですから、クライアント側のROMにOSを組み込むタイプと、サーバー側に仮想OSを稼働させて使うタイプです。全アプリケーションはサーバー側にあります。となると、OSを含むアプリケーションの設定やアップデートはサーバー側だけの作業となり、ユーザーの席にいっておこなう作業はハードウェアのトラブルを除いてはなくなることになり、運用担当者の負担が大幅に減ります。しかも、70%の故障の原因が既に取り除かれているわけですから、ほぼメンテナンスフリーといえます。おそらくハードウェアのリプレース時以外は、運用担当者はサーバーに集中していればすむということになります。

 

皆さんは、クレジットカードやキャッシュカードが登場した時を覚えていますか?キャッシュレスの始まりですね。現在は、紙の通帳すら必要なくなっています。ところが、年配の方の中にはキャッシュレスに不安を感じ、いまだに家庭内に幾らかの貯金を隠している方がいるでしょう?実は、自分のデータを手元に置かなくなると不安になるのはそれと同じことなんですよ。ですから、なかなかサーバーベース・コンピューティングには、馴染めないという状況がありました。

 

この時のわたしの実績を見て、フィリピンのアヤラグループ、セブアノルーリエ、ロペスグループなどのファンドを運用するNarra Venture Capitalのパコ・サンデーハス氏から、フィリピンでシンクライアントビジネスを立ち上げてほしいという依頼がありビジネス計画を策定することになりました。その依頼は、実はシリコンバレーのTallwood Venture Capitalのファウンダーであるダド氏(Dado Banatao Wikipedia参照)の、未来はサーバーベース・コンピューティングが主流になると確信されていて、彼の願いでもあったらしいのです。

 

ダド氏は、もっとも著名なフィリピン出身の起業家で、半導体の世界では特に知られた方です。ですから、彼はシンクライアント専用の半導体チップから造っても良いくらいに考えていたようでした。約半年をかけてビジネスプランを完成させ、投資が決まりXepto Computng Inc.を立ち上げました。わたしがXeptoと名付けたのは、”小さい”(XeptoはNanoより小さい単位)ことを強調したかったことと”X”で始まる言葉を求めたためなんです。

 

              f:id:naophone008:20210810173658j:plain出典:NEC

ところがやはり市場を獲得するのは非常に難しかったんです。最大の問題は、レガシーなシステムとネットワークの性能の問題でした。特にインテル軍団とマイクロソフトのファットクライアント推進の力が非常に強かったのです。特にCADやAdobeのアプリケーションは、サーバー側にかなりパワーが要求され、ネットークキャパシティーがないと稼働しなかったのです。

 

その頃から既に15年が経過した現在はどうでしょうか?5Gが使えるようになり、わたしの自宅でさえ200Mbpsのインターネットが低価格で使えるようになっています。当時のサーバーベース・コンピューティングを阻む問題はほぼなくなっています。しかも、クラウドコンピューティングが普通になり、企業の利活用する環境としてはトレンドとなっています。

 

しかもです。米マイクロソフトは、先月7月14日(現地時間、日本時間7月15日)から開催しているオンライン・カンファレンス「Microsoft Inspire 2021」(マイクロソフト・インスパイア)でクラウドPCサービス「Windows 365」(ウインドウズ・スリーシックスティーファイブ)を発表しました。8月から提供を開始する計画です。

 

                                    f:id:naophone008:20210810174144j:plain

ファットクライアントで稼いでいたマイクロソフトでさえ、遂にクラウド側へOSを持ってきました。これは面白い!なんかワクワクする新しい兆しを感じるのはわたしだけでしょうか?シンクライアントとサーバーベース・コンピューティングを推進してきたわたしとしては、「やっとここまできたか」って感じです。ダド氏の読みが現実のものとなってきました。ここから、じゃあ今後どんなことになっていきそうか、わたしなりに妄想してみたいと思いますので、次回を楽しみにしてください。

 

でわでわ