徒然なるしらべにのって!

あの地平線 輝くのは どこかに君を 隠しているから

地球はまわる 君をかくして!

 

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今日は2021年8月28日、一昨日悲しい訃報がフィリピンのマニラより届きました。皆さんもご存じのように、新型コロナウィルス:Covid19に連日多くの方が感染し亡くなる方も増えています。日本ではパンデミックの中オリンピックやパラリンピックが開催とされ、先手をとって十分な医療対策が施されないこともあって、自宅隔離を余儀なくされ、亡くなる方も増えています。しかも今や若年層まで重症化するケースが増えていますね。

 

これが医療先進国の現状なのです。厚生労働省のDMAT次長として各地のクラスター対策に飛び回っている弟の話では、高齢者施設では一度クラスターが発生すると感染を恐れて介護士や介護ヘルパーが休みがちになり、十分な措置が出来ていなないそうです。当然病院ではないために、新型コロナウィルス:Covid19のような緊急時の対策やマニュアルはもとより完備されておらず、一挙にクラスター化する施設もまれではないといいます。

 

とうとうわたしの身近なところで犠牲者が出てしまいました。それはフィリピンのわたしの大事な大事な知人です。名前はChivaといいます。今回は、記憶の中のChivaについて綴りたい。この機会にフィリピンの医療状況について皆さんに是非知ってもらいたいと思いますが、それは別の機会に綴りたいと思います。わたしの長女も現在マニラの大学で医学を学んでいますので、全く人ごとではないのです。

 

マニラにあるマカティ市のとなりにBGC(Bonifacio Global City)というフィリピンで最も生活コストの高い新しい町があります。多くの外資系企業がここにオフィスを構えており、高層マンションもつぎつぎと建築されています。フィリピン発の日系モールである三越も建築中です。 

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レストランも多国籍で、日本料理、イタリア料理、ペルシャ料理、ベトナム料理、中華料理、韓国料理、タイ料理などなど、そしてわたしたち日本人が聞いても知っている名前のレストラン、丸亀製麺、サボテン、一風堂などたくさん出来ています。住人も多国籍で、乳母車を押し同時に子犬をつれて散歩する住人もめだち、オープンカフェやバーなどで会話を楽しむ外国人の姿はまるで代官山や六本木を想像させる光景です。それほど安全な街なんです。

 

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Googleは、この街に数棟の高層ビルを借りて数千名のワーカーを抱えています。アクセンチュアをはじめいくつかのBPO(Business Process Outsoursing)企業にプロジェクト単位で業務委託しているんです。1つのチームを除いては、コールセンターなどのよくあるBPOプロジェクトです。その1つのチームというのは、Googleの開発したアプリケーションをテストして、開発グループにその分析結果を報告し品質を向上させていくプロジェクトをです。

 

フィリピンだけではないかと思うのですが、このチームは多国籍で各国各言語にチームが細分化されています。その中でわたしは唯一の日本人でした。日本人のチームは東京とGoogle本社所在地のマウンテンビューに分かれており、総勢7名が週一回のWeb会議で分担を決めたり経験を交流したりしてすすめていました。その他、中国、香港、ベトナムサウジアラビア、などなど20名ほどのスタッフが各言語でのテストをしていたわけです。

 

この多国籍チームのマネージャーで現場を監督していたのが、Chivaという人物だったのです。彼の上司でフィリピンを統括していたのは、小さく可愛らしいJappyという女性で、彼女は僕を採用した人物でもあるんですが、各国のチームの統括責任者でもありました。なので、毎週各国が一堂に集まってWeb会議システムでコミュニケーションをとり、それを彼女が統括していたわけです。

 

オフィスは非常に厳しいセキュリティルールが有り、私物はロッカールームで全て(筆記用具すらも)管理し、オフィス内にはもちこめません。まあ、お菓子や飲み物は別ですが(😀)。食事やスナックそしてコーヒーやソフトドリンクは、全てフリーで各階のパントリーエリアに置かれていて自由にとってよいことになっていました。日本ではこのようなオフィスはまだ考えられないでしょうね。

 

当然、雇用契約も締結しますし、担当するポジションや仕事内容も定義され合意します。わたしがGoogle 以前に努めたWundermanというニューヨークベースのマーケティング企業では、雇用契約書だけで10ページを超えていました。当然、簡単にクビにもなります。つまり、日本でようやく取り入れられるようになった「ジョブ型雇用」というのが標準です。解雇される場合は、ボーナスなど様々なインセンティブの支払いをうけることがでできます。

 

在フィリピンの欧米の企業では優秀な社員を確保するために、福利厚生つまり保険制度やフリーミールが提供されていてフレックスにしている企業がほとんどです。フィリピン政府も日本と同様にPhilhealthという政府の健康保険制度はあるのですが、天引きも少ない代わりに病気になった場合の保証も非常に少ないのです。ですから、プライベートの保険会社と契約して高額の保証が得られるようにしているわけです。

 

Googleには、さまざまなデザインの多目的ルームやゲームルームもありました。わたしたちのオフィスのあったuptown towerは、モールの上に立てられていたので、食品や衣料品、ガジェットなどの買い物も楽でした。まあ、便利なところでした。レストランも充実しており、一風堂、大阪の有名な串カツ店、じゃぶじゃぶ食べ放題店までありました。

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わたしは家族がセブにすでに引っ越していたために、単身赴任でオフィスから徒歩20分ほどのところにマンションの一室を借りて、朝はGrabタクシーで行き、帰りは徒歩で買い物をしながら帰るという生活でした。朝7時頃に出社し、夕方5時頃に帰路につくというのが基本的なルーティンでした。フィリピンは、まだ週45時間労働が普通です。

 

さて、朝オフィスに到着するといつも一番乗りなのが、一番古参の社員でタイ出身のNuiという女性です。年齢は不詳ですが(😀)、アメリカの大学で学んだ経験もあり自分の意見をはっきりという女性です。彼女にはチームの仕事のイロハを教えてもらったりと大変お世話になったのですが、一等最初に仲良くなったオフィスメイトでした。いつも周りを気遣い、社員のお姉さん的存在でしたね。それに韓国チーム、ベトナムチーム、台湾チームが、早い時間に来ているのでみんなでカナダのコーヒー&ドーナッツショップTim Hortons(ティムホートンズ)へ朝食を買いに行き、オフィスそばのパントリーのテーブルでおしゃべりしながら30分ほど過ごすことが毎日の日課となっていました。なかよしグループですね (^-^*)。

 

朝食も終わり、さて戦闘開始と仕事をはじめる。しばらくすると、現場監督がやってくる。そう、それがChivaなのです。見た目は童顔のキングコングのような、いやトトロのような奴って感じ。なかよしグループよりも早く来ていることもあるし、遅く来ることもある神出鬼没な奴。まず誰かに声を掛けひとしきり笑いを起こして席に着く。これがChivaのルーティンです。

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彼のプライベートはよく知らないのですが、中国系のフィリピン人ですね。とにかく、とても親切でみんながしたっていました。しかも、子供のようでよくみんなにいじられてもいました。彼が立ち寄るチームとくにアラビックのチームからは、絶え間なく冗談と笑いが起こっていました。まあ、フィリピンのオフィスでは楽しんで仕事をするのが普通ですがね。

 

Chivaは、日本ではまず見られないタイプのリーダーだと言っていいでしょう。34年間米国、韓国、日本、フィリピンの企業で仕事ををしてきましたが、もう一度一緒に仕事をしてみたいと思える上司というのは2人しかいません。Chivaはその一人です。

 

明確なポリシーを持ち部下をリードする、いわゆるハードなタイプのリーダーは沢山見てきました。非常に優秀であることは間違いありません。その意味で非常に尊敬しています。どこが異なるのか?リーダーとは、部下の能力を無理なくMaximizeしOptimizeする、そしてチームが互いに協力して自分たちをMaximizeしOptimizeするように成型する、それがわたしは重要だと思っています。Chivaは、まさにそんなリーダーです。見かけは、冗談好きで子供のようなのですが。本当に希有なそんざいです。

 

わたしたちのチームは多国籍メンバーです。「ダイバーシティ」という言葉をご存じだろうか?「多様性」と訳されるが、非常に深い意味を持った言葉です。単に多国籍であることがダイバーシティではありません。性別、地位、生活スタイル、宗教、、、、様々な面の多様性。これを一つの目標に向けてマネージするのは大変な仕事です。想像できますよね。

 

一つの事象に対する反応や感情の持ち方は、それぞれ異なります。最終的には、一つの目標と計画に向けて、一つの軌道に乗せて歩めるように指揮する、まさにオーケストラの指揮者のようなもの、それがわたしにはリーダーだと思うのです。Chivaはまさにそれです。

 

わたしの記憶にあるChivaは、そういうリーダーであると同時に、本当にLovelyな存在でした。彼は、ポケモンゴーなどゲームが大好きで、ジブリの映画とくに「となりのトトロ」が大好き、2ℓ入りのペットボトルでミネラルウオーターを飲む、チョコレートが大好きな、オフィスを自宅のように思いつも夜遅くまで残っている、窓際にたっては何かを考えている、大柄で童顔の青年!チームにとっては、頼りになるHospitalityに富んだ、いつ何があってもわたしたちを微笑ませて仕事に戻してくれる、良きお兄ちゃんでした。わたしたちには、「はやくかえりなさい!」と気遣ってくれる。

 

フィリピンでは、社内でいろいろなイベントを行います。チームビルディングを名目にメンバーを交流させるために、ゲームパーティーやダンスパーティをよくやります。そんなイベントの中にあって、Chivaの存在は皆を和ませるんですね。ところが、普段の食事はいつも一人。勝手な想像ですが、きっと唯一の自分のChill Timeなのではなかったのでしょうか。

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そんなChivaが先日かくれてしまったんです。彼に症状が現れてから病院に搬送するために奔走したオフィスメイトによると、酸素を必要としていたのに提供されない、救急車は20,000ペソも請求した、病院にベッドをとれない、悔しいとしかいいようのない中で、息を引き取ったというのです。

 

本当に悔しいし悲しい!全てのメンバーに、愛され慕われたお兄ちゃん!みんなが、わたしと同じ思いだと思います。昨日日本時間の午後4時、わたしのように今はチームにいないメンバーも含め三十数名が、Google Meetで集まってChivaの思い出を語り合いました。本当に悔しいし悲しい!同時にパンデミックというものと医療というものを再考されられました。

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Chiva!いつかまたパラダイスで会えるよ!信じてます。

 

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