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カリカチャー生成アプリMakeMe:市場投入への道 (1)

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MakeMe

 韓国でB2Cのオンライデパートが多くのアクセスを獲得していた頃(1990年台後半)、同時にそのサイトで使えるアバターが人気を得ていました。これが、Yahooなどでも自分の好みのアバターを福笑い形式で、顔などのパーツや髪の毛そして服を着たボディの中から選んで作成しサイト内で使えるサービスが出始めました。現在はLINEのサービスでもありますよね。

 

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LINEアバター

アバターを楽しむのは、韓国では中学生や高校生が年齢層としては中心でした。あるとき韓国の最大手キャリアを有するSKグループ(日本でいうところのDocomoにあたります)から、わたしに連絡が入り、「面白いソフトウェアがあるんだけれど話に来ませんか?」というので、とりあえずみてみることにしました。

 

SKグループは、わたしがガートナーの「エンタープライズ・アプリケーション戦略」担当のアナリストをしていたときに、韓国情報産業連合会の李ヨンテ会長(三宝コンピュータ会長、当時Trigemという低価格PCの火付け役でSOTECの筆頭株)の招待で、ソウルで講演をさせていただき、SAPを導入中のサムソンからプロジェクトで困っているので助けてくれと言われて訪問した時にわたしを知ったそうです。

 

SKグループとの会議で見た時のものは、2Dと3Dの両バージョンでした。顔写真からそれを分析しアバターを作るという以外、詳しいことはSKグループも理解していなかったようです。当時非常に珍しいソフトウェアだったので、韓国まで行って詳細を確認したいと思いました。

 

このソフトウェアのコンセプトは、パスポートタイプの正面写真を入力すると、輪郭と顔のパーツ(鼻、目、口)を分析し、データベース化された数百の顔パーツから近似値に相当するもの選びだし配置するという、福笑い形式とは違った「似顔絵」的なキャクターを生成してくれというものです。気に入らない顔のパーツは後から変更が効くし、タトゥーやメガネをつけたり、髪の毛の形や色も変えられるんです。そして、正確には「似顔絵」というより「カリカチャー」つまり特徴を若干誇張する技法を使っています。

 

これは、さまざまな楽しみ方があると確信し、なんとかしてビジネスにしたいと思いました。しかし、開発者は数百万の手付けと引き換えに、使用権を渡すというのではたと困りました。どうやって数百万を捻出するかです。

 

知り合いに相談をしました、そしてその中で「データイースト」というアーケードゲーム一世風靡した会社の名が上がりました。早速アポをとってもらって、プレゼンに行ったのです。そして再度ミーティングを持ち、別の関係者にも見せたいというので再度伺うことになりました。

 

2度目の会合では、投資家さんたちが参画していました。後でわかったのですが、「データイースト」は、破産状態で傘下にあった携帯のバッテリーの金属ケースを加工する会社が目当てで上場したばかりの「フォトニクス」という半導体検査装置の製造会社の柄澤社長とM&A会社が事実上管理をしていたのです。柄澤社長の目に止まったようで、ベンチャーを作ってそこでこのソフトウェアを使ったビジネスをしようと認めていただき、わたしは事業部長としてリードすることが決まりました、

 

まずは、ソフトウェアの確認と提携の交渉を韓国に行ってやりましょうということになり、私と社長で飛びました。ソウルのSKグループのオフィスで先方(名前を忘れてしまいましたm(._.)m)とSKグループとの間で、まずソフトウェアのプレゼンを拝聴し質疑応答をしました。わたしは、改良は必要だけれども日本市場でのニーズはあると確信しました。

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韓国SKグループ

それで、手付金を払う約束と手付金確認後1ヶ月以内に版権を引き渡すことで合意をし、日本に戻ってきたのです。ところが、着手金支払い後待てども版権を送ってこない。わたしは業を煮やして、紹介者のSKグループにクレームを出しました。

 

そうしたら、「彼らはすでに版権を他社に販売してしまっていた」と報告が入りました。わたしは顔面蒼白になりました。詐欺だったわけです。でも。天下のSKなら事前に調べておくべきじゃあないでしょうか?さんざん文句を言いました。そうしてやく半月して、「現在の版権所有企業が見つかりましたので、韓国に来てください」というので、再び飛ぶことになりました。

 

前回同様にSKグループのオフィスで会うことになりました。部屋には、SKの連中と金ヨンサム社長(ポド株式会社)が着席していました。金社長は、非常に大人しく恥ずかしがり屋に見えました。彼はこう提案してきました。「あなた方が支払ったお金は、私がいただいたことにしますので、ぜひ日本で展開しませんか?」というもので、大変驚かされました。ホッと胸を撫で下ろし、「やりましょう!」と言って握手を交わしました。

 

されに、技術の詳細を確認しました。「まだ満足いくところまで写真を分析できていない。顎のラインを取るのがものすごく難しい数式の塊で、それを理解できるのは韓国でもCYOだけしかいない」ということでした。「それは、調整していきましょう」ということで合意をして日本へ戻りました。

 

韓国のモールでは、このサービスを使ってTシャツやマグカップなどに自分のアバターと選んだ背景を印刷するという写真館のようなところで人気をはくしていました。「ちょっと待てよ?日本人って自分の似顔絵や写真をお金はらってグッズに印刷するかなあ?」答えは、ノーです。これは、適用サービスを考えないとダメだなって思いました。

 

ちょうどその頃、J-Phoneのカメラ付き携帯電話が市場投入されるということが囁かれていました。わたしは、直感で「これだ!」って思いました。このソフトウェアは、カメラが必須です。最初の韓国版はPCのWebでのサービスとして作られていました。しかし、携帯電話でのインターネットアクセスは鰻登りに伸びていくと確信していましたので、急遽携帯電話版を開発することに決めました。

 

わたしは、社長に掛け合ってCubicmoreという会社を立ち上げ、エンジニアとセールス・マーケティング、そして韓国とのコミュニケーションを取るために、日本語と韓国語を使える人材を採用させてくださいとお願いし、了承を得ました。

 

たまたま、知り合いの社長が時々連れて行ってくれる東京赤坂にある韓国クラブの「みんちゃん」と呼んでいた、いつもわたしのテーブルに座ってくれる女の子のことを思い出しました。彼女は、非常に綺麗な女の子でしたが、雰囲気がどうもクラブには不似合いな感じがしていたので、思い切って誘ってみることにしたんです。「みんちゃん、今度韓国企業とビジネスするんだけど、僕の秘書になる気ない?」って聞いてみたんです。

 

なんと、彼女はとっても喜んでくれてすぐにOKしてくれました。聞くと、「日本に来て最初はパチンコ屋で務めて日本語を勉強したけれども昼間の仕事になかなかつけなくて、仕方なく知り合いを頼ってクラブに来たんだけれど、昼間の仕事がしたかったんです」ということでした。彼女は第1号社員で、エンジニアの採用も一緒にやりました。彼女は、結構人の性格を見抜くのが上手だなあと感心しました。

 

そして、数人の面接の後、一人の青年に採用を決めたんです。Mくんという、気弱でガラス製の糸のような青年でしたが、技術力はあるなあと思いました。ただ、彼の精神状態には十分気を使ってやらないと、すぐ潰れてしうことはわかっていました。そして、以前からの知り合いで若干年配の女性でマーケティングのベテランのOさんに無理を言って入ってもらいました。

 

今後の製品の改良の件で、韓国ポド社の金社長とCTOと早速ミーティングを持ちました。彼らは、快く同意してくれました。ついでに、キオスク版、つまりゲームセンタなどにおいて遊ぶ(プリクラがモデル)PC単体アプリの開発も提案してくれました。

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さあ、開発が始まりました。サービスのアウトプットとして出来上がってくる「カリカチャー顔」の調整が最も大変な作業でした。韓国人の顔と日本人の顔はやはり微妙に違うんです。肌の色も、韓国人はピンク色が肌に入っているけれど、日本人は褐色が入っている。髪の毛の好みも違う。鼻から目や口までの距離、輪郭までの距離も違う。服の色の好みなんかもやっぱり違うんですねえ。いや〜〜〜大変でした。

 

中でも難しかったのは、輪郭の抽出でした。どうも顎のラインは、首の色との区別がつきにくいので抽出が難しかったようです。どうも色に関する分析と微分計算の塊だったんでしょうね。それと顔の作りは、民族ごとに特徴が違うので汎用性を持たすには長期の研究が必要でしょう。

 

わたしからのリクエストを、エンジニアのMくんとみんちゃんでポド社のエンジニアに伝えるのにも苦労しました。如何せんわたしのリクエストは絶対命令で、ポド側では「なぜそんなことが必要なのか理解できない」ということが多々あったのです。当然です、日本人のサービスに関する考え方と韓国側のそれとは明らかに違いますよね。外国人にその違いを説得するのは、本当に大変です。

 

これはかつて、米国のERPパッケージのR&Dで仕事をした時にすでに経験済みでした。例えば、財務会計ソフトウェアの入力画面ですが、日本の経理部の人たちは、おおよそテンキーとタブキーで仕事をしますが、入力画面にはアウトプットの帳票に近いイメージを求めます。それに入力フィールドに罫線が入ってないといやがるのです。ところが欧米では、その罫線を定義したり表示したりすることのパフォーマンスを考えて、タブで飛んだフィールドに入力項目名が上部に表示されていれば問題ないのです。罫線は必要ないわけですね。こんなところに、ローカライズの難しさがあるわけです。

 

さらに、当初韓国同様に中学や高校の女性とをターゲットにしていたので、操作性やインタフェースも何度も試行錯誤しました。こうやってついに10ヶ月後に最終版が完成したのです。

 

さあ、ここからがマーケティングのフェーズへと突入していくわけです。わたしは、このマーケティングでさまざまなことを学ぶことになります。今まで考えたこともないことですよ。楽しみにしてください。

 

でわでわ