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条約締結に向けてーフィリピンで学んだ環境問題(2)

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美しいセブ等の海!ジンベイザメ、海亀、トロピカルフィッシュ、たくさんの生物が泳ぐ海!わたしは、約2年間このセブ等で過ごした。セブ等のある地域をビサヤ諸島とよび多くの島が散在している。フィリピン最大の観光スポットでもある。

 

この美しい島々と海が、水銀に汚染されたらと想像してみてほしい。これは大変だ、放って置けないと思われるでしょう。

 

セブ市には、「ITパーク」という地域があり、コールセンターに代表されるBPO企業やソフトウェア開発企業が多くある。マニラに比べると、比較的労働者が確保しやすいこともが理由でもある。また、美しい島であることを売りにした日本人留学生や家族を対象にした英会話スクールなども続々進出しています。

 

フィリピン第二の都市であるセブ市は、ゴミ問題をはじめさまざまな環境問題を抱えています。当時(2014年)セブ市の市会議員を務められていて環境問題の第一人者であったNida C. Cabrera女史が先頭になって、北九州市や横浜市と共同プロジェクトを実施されていた。

 

マニラ圏で蛍光灯収集プロジェクトをスタートさせたのを機に、セブ市からの要望でわれわれが設置した破砕機を導入し、同様に野村興産のイトムカにある処理プラントで処理したいという要望が来ました。その予算は、UNIDO(国際連合工業開発機関)が提供するということになりました。

 

早速、Cabrera議員を野村興産とともに表敬訪問しました。そしてわたしたちのプロジェクトの概要をプレゼンさせてもらい、協力を仰ぎました。数回にわたって、PCO(Polution Control office 企業の環境担当責任者)を中心に、セミナーを開催し野村興産のイトムカプラントに招待し、理解してもらうという趣旨でした。

 

セブ市には、イナヤワンというゴミ山があってここに産廃業社も軒を連ねている。その中にCebu Common Treatment Facility Incorporated (CCTFI 社)というセブ市のCabrera女史と連携して産廃業を営む企業があります。ここが我々のカウンターパートとして、破砕機を設置し、蛍光灯を回収することになったわけです。

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セブ島には、太陽誘電常石造船、ミツミなど、日本を代表する企業もあり、空港側にある経済特区にも80社以上の日系企業があります。これらの企業をターゲットとして、セブ日本商工会議所や日本人会などの協力を得て、セミナーを開催していきました。

 

セブ市では、北九州市のエコタウンなどから産廃業社がきて、いくつかのプロジェクトを実施していました。例えば、廃棄された携帯電話を回収しリサイクルできる金属や部品をリサイクルするプロジェクトなど。残念ながら、このプロジェクトは成功しているようには見えませんでしたねえ。なぜなら、フィリピンでは携帯電話は「お下がり」市場があるんです。つまり、古くなったり、何処か故障したりした携帯電話機は、買取業社がたくさんがあり、その業者が故障などを治して安く販売する、予算のあまりない人がそれを買う。このビジネスが非常に大きなマーケットを持っているからなんです。

 

フィリピンでは、非常に厳しいルールを設けて産業廃棄物に関しては基本的に正しく処理をしようとしているのですが、家庭ゴミはまだルールが徹底できていない状況です。ゴミ収集車が回収に回るのですが、家庭ゴミは十分に選別されていません。トラックには、いくつかの大きな袋が側面に吊るされていて、回収中にリサイクルできてお金に変わるものを回収している人が選別し、ゴミ処理場に到着する前にお金に換え小遣いにしているのです。

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 そして、ゴミ山には住み着いている人たちがいて、お金に変えられるものを拾い集めて現金化しています。その人たちのことを、スカベンジャーと呼んでいます。その多くが子供達なんです。水銀のついた蛍光灯を踏んでしまって、死んでしまう子供までいるというのが現状です。

 

ゴミの選別というのはとっても大事なことで、それは手間のかかることであり知識も必要なアクティビティなんですよね。わたしたちは、セミナーを通じてまた政府や自治体との会合を通じて、学校教育にしっかり組み込むことの大事さを強調してきました。社会のルールを徹っていさせていくには、子供たちが最も強力な教師になるんです。親は、子供に言われて嫌と言えませんから、そうでしょ?

 

フィリピン人の多くは、まだゴミは金に変わるという意識があり、業者が処理費を請求するのが難しいということが最大の問題です。少なくとも蛍光灯は100%輸入であり、税関が全て押さえてるわけです。ですから、そこでリサイクル税を付加すれば済むわけです。環境省には、台湾の事例を伝えました。台湾ではそれを実施しているが、なぜか蛍光灯がすべて製品として市場に出ていなくて、税金が処理費として100%処理業者にいかず、30%近く税金が残るという事実を伝えたのです。これは、いわゆる彼らに対する「飴」なんですね。

 

そうすれば、遅かれ早かれLEDの価格が下がれば、蛍光灯からLEDに変わっていくことを訴えました(LEDからは別の廃棄物が出るのですが)。まあ、省庁間で連携して行う制度には、なかなか合意が取れません、これが現実です。

 

わたしが、セブのプロジェクトのためにマニラから航空機で移動した時のことでした。近くに上院議員のシンチャ・ヴィリアー女史が乗っているのを発見しました。彼女は、わたしの住んでいたラスピニャス市在住で、ベニグノ・アキノ3世(愛称ノイノイ)氏と大統領選で戦った不動産王の一人であるマニー・ビリアー氏の奥さんに当たります。お父さんは、ラスピニャス市の市長の座に長期にわたって座っている、ネネ・アギラー氏に当たり、いわゆる大金持ちです。上院では、環境問題を代表する議員さんでした。

 

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シンチャ・ヴィリアー上院議員



これは、チャンスとばかりに駆け寄って、わたしたちのプロジェクトを説明し支援を求めたところ、帰ってきた言葉は「日本でしょ?高いばかりで話にならない」でした。愕然としました。コストだけで考えて一蹴するのが、この国の環境担当上院議員なのかと。

 

わたしたちの最大の目標は、フィリピンが水俣条約を批准することと、自ら水銀処理の技術を取り入れ運用してくれることでした。でも、「こんな上院議員がいるようじゃあ、時間かかるなあ」というのが正直な感想でした。

 

セブのプロジェクトも第1回の回収と日本への運搬も終わり、さああとは水俣条約の批准だと意気込んでいました。ところがです。ふと気づいたのは条約に批准したらフィリピンにある水銀はすべて国内で処理しなければならないということに気づきました。

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何ができるか考えていると、ふと思い出したことがありました・蛍光灯処理についての業界分析をしているときに、フィリピン・エネルギー省が、蛍光灯の破砕から水銀抽出(純度は若干低く、蛍光灯の破砕粒度が細かすぎてガラスのリサイクルに制限があった:日本ではガラスは再度グラスなどに加工され販売もされる)までできる全長約30メーターほどの機械(ヨーロッパからアジア開発銀行の融資で購入)があることを思い出した。

 

もう一度エネルギー省の担当ディレクターに詳しく話を聞きに訪問したんです。最大の疑問は、なぜこれを環境省ではなくエネルギー省が手に入れたのか?なぜ稼働させないのか?でした。きっかけは、政府関係の全建造物の蛍光灯をLEDに交換するという決定があり、そのためにその蛍光灯を処理することができなければいけないので、LED化担当のエネルギー省が急遽購入したというのです。

 

さてそれが、環境省がお気に召さなかったようで無視し続けているというのが実情だった。しかも、エネルギー省は稼働させた場合、外部コンサルタントを使って蛍光灯1本あたりの処理コストを計算したところ20ペソ(約40円)弱だと言ってい流のです。わたしは、どうしても信じられませんでした。この機械を稼働させないで放置していると、機械のコストの回収もできず、倉庫代も毎月かかる、スキャンダルだと言わざるを得ない状況でした。

 

とりあえずこれをメンテナンスして、われわれがオペレータを出して(もちろん政府から費用はもらいますが)稼働させるのが一番良い方法だと思い、国連のUNEP、UNIDO、野村興産に提案しました。「その方向でやってみてくれ」ということだったので、エネルギー省のトップクラスと協議させてもらえるように働きかけました。

 

そこで得た合意は、どこか自治体に機械を寄付するということでした。ということは、機械の運搬費から自治体の負担になるわけです。そうなると選択肢は一つです。最大の自治体であるケソン市に提案するしかない。そのためには、運用コストも計算して自治体が回収可能なのかを提示して見せるしかないわけです。そこで、エネルギー省が外部コンサルタントを使ってコスト計算をした報告書をコピーさせてくれるよう要請しました。ところが、出てこない。つまり、嘘をついていたわけですよ。で、蛍光灯1本あたりの処理コストが20ペソだなんてことはあり得ないというわたしの勘ぐりは正しいと確信し、コスト計算を機械を製造している会社か、メンテナンス会社にお願いしようとリサーチしました。米国にメンテナンス会社があることがわかり、メールで協力を依頼しました。わたしがフィリピンでの労働者の賃金やその他の見積もりを提供し、コスト計算が仕上がりました。

 

次に重要なことは、抽出した水銀をどのように埋め立てるかです。そのためには、特殊な容器が必要で埋め立てに適した場所と埋め立て方を、野村興産のコンサルティングをしてもらうしかありません。

 

ここまでお膳立てをして、ケソン市およびエネルギー省に「あとはあなたたちで話し合ってください」と言って、わたしは身を引きました。UNEPのDr. Desiree Montecillo- Narvaezと一緒に食事した際に「よくやりましたね」と褒めていただき恐縮しました。

 

フィリピンでは、条約に調印する際に全省庁の合意を取るというルールがあり、2年間ある一つの省庁が、合意しなかったために条約の締結には至らなかったのですが、ようやく調印したと情報が入り一安心。しかし、いまだにあの機械が稼働しているという話は聞きません。どうなることやら心配です。

 

このプロジェクトの詳細は、「Zeromercury projekut報告書」をお読みくださいね。このプロジェクトを通じて、環境省、エネルギー省、保健省、各自治体と信頼関係もでき有意義だったと思います。

 

でも、環境改善プロジェクトは継続できるかが大事ですね。

 

ではでは